Lektion 40, Text 2

第四十一課 先生への手紙

青木先生

すっかりご無沙汰いたしておりましが、お変りなくお過ごしでいらっしゃいますか。早いもので、先生とお別れしてから、もう半年が過ぎてしまいました。ベルリンに帰って参りましてから、しみじみ思いますのは、日本で毎日、日本語を使って生活できましたことは、実に、かけがえのない経験だったということでございます。そのような条件のない環境でも、日本語を忘れず、更にもっと上手になるのには、どうすればよいかということを最近はしきりに考えさせられております。幸い、何人か日本の方が、ベルリンにも滞在していますので、どなたかに個人教授をお願いしてみようかなどと考えております。この点で、先生のご意見をお伺いできれば、幸いでございます。

日本語のクラスで同級でしたヤングさんとヤコブさんから、先週、便りが参りました。二人とも、元気で活躍しておいでのようです。送別会の時、先生がおっしゃっておられましたように、これからも、こうして時々、近況を知らせ合えれば、互いに大きな励ましになるかと存じます。

ヤングさんからの手紙によりますと、今までは、日本の美術や文学の研究が、歴史や政治、経済などの研究と切り離されて進められてきたが、それは正しくないし、この二つをもっと密接に結びつけていかなければならないという趣旨の論文を発表され、関係者の間で反響をよんだそうです。確かに、ヨーロッパでは、谷崎や川端などの文学も、日本美とか、エキゾチシズムなどという点からだけ、少しかたよって評価されている傾向があるように、私も感じておりました。私にも、その論文のコピーを送って下さったそうですが、読めるのを楽しみにしております。

ヤコブさんは、日本との貿易の仕事にたずさわっておられるそうですが、先生もご存じのように、数字が相変らず苦手で困っておられるそうです。

きのう、ベルリン経済大学のフランク教授が日本で開かれる国際会議に出席されるため、こちらを発たれましたので、先生にちょっとしたものをことずけました。お受け取り下さればうれしく存じます。

いつかお話しなされていたヨーロッパ旅行のご計画は、いかがなされましたか。ベルリンには、いつごろおいでになりますか。前もってお知らせ下さい。先生とこちらでお目にかかれますのを今から楽しみにいたしております。

ベルリンは急に秋らしくなってまいりました。そちらはまだ残暑もきびしい気候かと存じますが、どうぞご健康でご活躍下さいますようお祈りいたしております。家内からもよろしくと申しております。

九月十日  クラウス・ハーン


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