Lektion 38, Text 1

第三十八課 一 誤解

私は少し日本語ができるので、何度か国際会議で通訳をしたり、いろんな日本代表団の世話をしたりしたことがあります。日本の代表団は、労働組合の人々でも、文化関係の人々でも、大抵みんな気持のいい人々が多く言葉や習慣こそ違いますが、私は今まであまりいやな経験をしたことがありません。けれども、地方では、互いに気がつかずに誤解してしまうこともよくあります。そして、その度に、もっとよく気をつけるべきだったのにと後悔します。

去年、労働組合代表団がベルリンに着いた日の晩のことでした。みんなが疲れてさえいなければ、オペラに行きましょうとドイツ民主共和国側の責任者が提案し、日本側も賛成しました。ところが、集合時間の六時になっても、だれの姿も見えず、十分過ぎても、まだ一人も現われませんでした。私があわててフロントから団長の部屋に電話をすると、団長は、「さっき八時に集合すると言いませんでしたか。」と聞き返しました。日本では、私が言った「十八時」という言い方は、日常あまり使わず、普通は「午後六時」を使うので、日本側は、八時と間違えてしまったようでした。こうした誤解にもかかわらず、日本代表はみんな、それから大急ぎで支度して集まってくれました。私が気をつけさえすればよかったのにとあやまると、団長は、「いや、ちょっとおそいと思ったのですが、うっかりして確かめなかったのでしから、私たちこそ、どうも申しわけありませんでした。」と丁寧に答えました。途中、バスの中で、私こそ本当に失礼しましたとくり返すと、「いいえ、郷に入っては郷に従うべきですよ。」と笑って答えました。

また何年か前に、婦人代表団の通訳をしたことがあります。その中に、もう七十歳近くで、その年齢になって初めて外国に来た人がいました。年こそとっていましたが、とても元気で、代表団のための乗用車も利用せず、ホテルの近くを一人で散歩してきては、見聞きしたことを楽しそうにみんなに話してくれるのでした。ある日、「きょうは驚くべきことを発見しましたよ。ここでは街で人々が、『団結、団結』と、くり返し言っていますね。いい日本語が使われているのは、やはり社会主義の国だからでしょうね。」と私に話しかけました。私が、一瞬何のことかよくわからず、びっくりしていると、代表団の中でドイツ語の少しわかる人たちが、急に笑い出しました。それで「Danke」というドイツ語が、その人には「団結」に聞こえたのだということがわかりました。

このように、いつも気持よく笑えるような誤解ならいいのですが、会議の時などには、よく注意しないと、大変なことになると思います。


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