Lektion 35, Text 1

第三十五課 一 人の癖

人々の習慣は、それぞれが生れて育った国や環境によって自然に違ってきます。自分では全く気がつかない間に身につけた癖も実にさまざまで、これらは、しゃべり方、食べ方、歩き方などの広い生活範囲に及んでいます。

中村さんは、話し出したらやめられない人ですが、話し夢中になればなるほど、「えー」がしきりに出てきます。何秒か前に使ったばかりなのに、また、「えー」が飛び出してきて、聞きづらいので、一度それを注意してあげました。すると中村さんは、「ええ?そうですか。自分では全然気がつきませんでした。ところで、えー、物価が、これ以上、上がったら、えー、全く大変ですね。」などとまた話し続けました。この時も、人の癖ばかりは、一度身につけてしまったらなかなか直しにくいものだとしみじみ感じました。別の機会に数えてみたら、中村さんは五分ばかりの間に五十回も、「えー」を使っていました。中村さんのような場合は、相手が慣れてしまえば、特に迷惑がるほどでもありませんが、人の癖には何かおかしいのや困ったのもよくあります。

画家の木村さんは、一度お酒を飲み始めたらやめられないばかりでなく、酔い出すとセンチメンタルな歌を歌いたがり、歌いながら必ず泣いてしまいます。その様子がひどくおかしいので、私たちはいつも笑わせられます。またある知り合いの娘さんは、何でもひどくきれいにしておきたがる癖があります。彼女の家を訪れるお客さんが扉などにさわると、すぎ目の前で拭いたりするので、とてもいやがられます。

食事の仕方は、個人の癖というより習慣の違いだろうと思いますが、これも国によって随分違います。日本では普通、ご飯とみそ汁とおかずを一番自分の口に合ったやり方で食べます。まずみそ汁を全部飲んだらご飯、というような順序は決まっていません。けれども、初めにみそ汁ばかり飲んでしまったら、それは行儀が悪いと思われてしまいます。ところが、日本に何年もいる欧米人でも、大抵は、みそ汁をまず最初に飲んでしまうようです。また、日本では、みそ汁などを音を立てて飲んでも失礼にはなりません。けれども、外国人の家庭に招かれて、スープを音を立てて飲んだばかりに、すっかり評判を悪くしてしまった日本人が何人もいるのを私はよく知っています。

このような人々の癖や国々の習慣をいろいろ集めたり、その相違を調べたりしたら、おもしろいだろうと思います。


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