きのう、ベルガー教授が学生を何人か家に招待してくれました。私もドイツ人の学生といっしょに楽しく過ごしました。けれども夜おそく帰ってくる途中で雨に降られ、家に着くまでには、すっかりぬれてしまいました。熱い紅茶かミルクが飲みたいと思いましたが、そんな時間に台所でうるさくしては、下宿のおばさんに迷惑をかけてしまうと思ったので、そのまま部屋に行きましたが、からだ中が寒くて朝までほとんど眠れませんでした。
きょうは木曜日で、毎週午後三時から友だちのシュミットさんに約二時間ぐらいドイツ語を教えてもらうことになっています。また、夕方からは切符をもらったので、オペラを聞きに行くことになっていました。熱を計ると三八度四分ありました。朝食の時間になっても、私がいつものように部屋から出て行かなかったので、下宿のおばさんが心配して、部屋に様子を見に来てくれました。
「山田さん、どうしましたか。もう九時ですよ。」
「すみません。ちょっとかぜで熱があって起きられませんでした。」
「それはいけませんね。」
「ええ、でも、きょうは、することがたくさんあるので、もう少し寝てから起きるつもりです。あまり心配しないで下さい。」
「そんな無理をしないで、きょうは一日休む方がいいですよ。何か薬をあげましょうか。それから、お医者さんに来てもさう方がいいでしょうから、電話をかけてあげましょう。後で近くまで買物に行きますが、何か買って来てあげましょうか。遠慮しないで何でも言わなくては駄目ですよ。」
「はい。では、申しわけありませんが、暇がかわいたので、冷たいジュースがもらえますか。」
「でも、少し熱が下がるまでは、冷たいものは、かえってよくありませんよ。熱い紅茶を持ってきてあげましょう。」
「ああ、それから、友だちのシュミットさんにきょう授業は無理なので、来週の火曜日に来てもらえないか、電話で聞いて下さいませんか。きょうのオペラの切符を友だちからもらいましたが、ちょっと行けないでしょうから、どなたかにあげて下さい。」
「それはありがとう。きっと息子が喜んで行くでしょう。今、何か果物を持って来てあげましょうか。」
「いいえ、今を結構です。後でいただきます。」
「では、お医者さんとお友だちに電話をかけて来てあげましょう。」
それから、かぜが治るまで、おばさんはとても親切にしてくれました。外国に暮していて病気になった時、その国の人に親切にされると、とてもうれしいものです。