Lektion 36, Text 1

第三十六課 一 入院

鹿児島から仕事で東京に来ていた中野さんは、おととい、今年になって二度目の交通事故に会ってしまいました。その日、中野さんは、予定がたくさんあって疲れてしまいそうだと思ったので、ホテルの前からタクシーに乗りました。ちょうど朝のラッシュの時間で、高速道路はかえって混んでいそうだったので、運転手に頼み、別の道を選んで走ってもらいました。運転手は地図をよく知っていて、空いている道をどんどん走りましたが、狭いだけに、反対の方から車が来ると、とても危なそうでした。最初の目的地の近くまで来た時、右の方から急に一台のバスが出て来て、中野さんがぶつかりそうだと思った瞬間には、もうおそかったようです。中野さんも運転手も、すぐ近くの病院に運び込まれてしまいました。運転手は、中野さんに心から申しわけなさそうに何度もあやまり、怪我もあまりびどくなかったので、その日のうちに家に帰っていきました。中野さんは、窓カラスにぶつけた頭の怪我で一週間は入院している方がよいと医者に言われました。

きのう私は、病院からの電話でそのことを聞き、びっくりしました。中野さんが喜びそうな果物や花を妻に買って来させて、私はすぐ見舞いに行きました。中野さんは、家族にだけは、仕事が増えて予定の日には帰れそうもないと電報を打ったそうです。そして、私にもあまり心配しないでほしいと言いましたが、それは言葉だけで、何かちょっと苦しそうな様子でした。病院はあまりきれいでなく雰囲気もよくありません。どこか別の病院に移る方がいいのではないかと提案すると、中野さんも、もしてきればそうしたいと答えました。

それで、きょう私は、仕事で忙しかったのですが、中野さんの入院のことについて相談するため、知り合いの医者がいる病院に車で出掛けて行きました。きょうは珍しく寒く、雪でも降り出しそうで、道も凍っているところがありました。こんな日の車の運転は気をつけないと危ないし、交通事故だけは起こさないようにと思いながら、急いでいたので、つい無理をしてしまいました。気がついた時には、私はどこかの病院のベッドに寝かされていて、妻が心配そうな顔をして、そばに座っていました。後で聞いてみると、車がすべって木にぶつかってしまったそうです。退院できるまで、十日間ぐらいはかかりそうだと言われたので、あしたから私も中野さんも、もう少しいい別の病院の同じ部屋に移れるように、妻は全部手配してくれたそうです。


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