山中さん一家は、いろいろ工夫して余暇を有意義に過ごすことにしています。
山中さんは会社での仕事が多く、無理が重なって、最近は、急に立ち上がったりすると、ふらふらと目まいがするほどです。そこで、健康管理には薬よりも規則的な運動の方が身体に効くと医者からも言われ、毎日三十分ほど体操をすることにしました。日ごろ、運動をなまけていたせいで、初めは、少し激しく走ったりすると、息がハーハー切れ、呼吸が困難に感じられるほどでした。
大学生で、陸上競技選手の健君も、高校生で、バレーボール・クラブの委員をしている次男の光夫君も、中学生で、卓球がうまい長女の礼子さんも、山中さんに応援を惜しまず、週末には一家で必ず、スポーツやゲームをすることにしています。
「あしたは、天気もあまりよくないらしいし、本当は勉強がたくさんあって忙しいけど、まあ、骨休めに、やっぱりみんなで何か試合でもしようか。」食卓を囲んで、土曜日の夕食をとっている家族をぐぐりと見回して、長男の健君が提案しました。
「賛成!お隣の隆子さんを誘ってチームを組み、卓球の試合をしましょうよ。そして、負けたチームには、来週いっぱい買物とお掃除をさせ、勝ったチームは、ごほうびにケーキがもらえる、というのはどう?」と礼子さんが、きゃあきゃあはじゃきながら答えたので、みんなは、どっと大笑いしました。
「まあまあ、礼子さんらしい提案ね。この前、学校の選手権大会で準決勝戦までいったほどの礼子さんだから、お母さんは、礼子さんのチームに入れてもらいましょう!それに勝負に強い光夫さんが加わってくれたら、お母さんは来週確実に、買物からも、お掃除からも解放されると思いますけど、お父さん、どうでしょうね?」食卓を片付けながら、山中夫人はにこにこして、山中さんの顔をのぞき込みました。
「困ったなあー」山中さんが言葉を失っていると、
「お母さん、そんなのは変だよ。チームを勝手に組むのは、おかしいよ。くじを引いて決めるべきだ!」と健君は、少しおろおろして抗議しました。いつかはオリンピックに出場したいなどと言っているほど、特に八百メートル競走に強い健君も、卓球は、さっぱり駄目なのです。せっかく一家のためと思って提案したのに、来週中、家事をさせられる羽目に陥っては大変です。それで、いつもはどっしりと落着いていて、みんなに頼られているほどの健君が、この時ばかりは長男らしくもなく、あわててしまったのも道理です。
それから一家は、がやがやと三十分ほども討論し、結局、チームは、くじで決めること、勝ったチームにはケーキの景品がつくこと、同点の場合は、延長戦はしないで、引き分けにすることなどで意見が何とかまとまりました。
礼子さんは、プンプン怒った顔で健君に、「お兄さん!ずるいわよ!」と食ってかかっていましたが、山中夫人は、「さあ!何のケーキを作りましょうか…」と、かえって楽しそうでした。