Lektion 30, Text 2

第三十課 ニ 暑い夏

今年の夏はヨーロッパだけでなく、世界的に暑かったようです。東京の母から届いた手紙には、日本でも毎日気が変になるように暑い日が続いたと書かれていました。ベルリンでも今年は六十年振りの暑さで、気温も三〇度を越えた日が何日かありました。こんなに暑くてわ、ちょっと動いても汗が出るし、日中は、私もあまり外を歩かないようにしていました。太陽の光が乏しいヨーロッパでは、日が照ると、人々が大喜びで外に出て行ったり、海水着を着て庭で日光浴をしたりしますが、今年は少し様子が違ったようです。ある日の正午過ぎに用があって都心まで出掛けて行った時、その辺りには人通りもなく、まるで嘘のようでした。ちょうど夏休みのころで、多くの人たちは休暇をとり、海や山に出掛けて行ってしまっていたようです。

私もベルリンから南の山の方へ旅行するつもりで、いろいろ用意していました。けれども、友だちのリヒターさんに招かれたので、彼の故郷であるリューゲン島の港町に行きました。そこはベルリンから北の方に約二五〇キロ離れていますが、汽車で一度途中で乗り換えて約五時間ぐらいかかりました。

むし暑い日が続き、私たちは毎日泳ぎに行きました。海は思ったより浅く、水も空のように青くてきれいでした。リヒターさんは泳ぎが得意で、あまり泳げない私の足を水中で引っ張り、口や鼻から塩辛い海の水が入って私があわてたり怒ったりすると大笑いするというようなことが何度かありましたが、夢のように楽しい毎日でした。砂浜では子供たちが砂をほったり、きれいな石を集めたり、おとなたちは泳いだり、バレーボールをしたりしていました。このような光景は、日本と少しも変らないようだとしみじも思いました。

ある暑い日の午後、東の方から空の模様が急にあやしくなってきました。真黒な雲が出てきて雷が鳴り始め、大粒の雨が降ってきました。泳いでいる人たちが、みんなすぐ海から出て来るようにと監視していた人たちから注意され、人々は大急ぎで着替えたり、手荷物をまとめたりして、それぞれ去って行きました。私は、雷雨の時の海の景色を眺めるのが大好きなので、リヒターさんといっしょに近くに太い木の下に逃げ込んで、急に夕方のように暗くなってきた海岸の雰囲気を楽しんでいました。ちょうどその時、走りながら通りかかった人に、こんな時、木の下にいるのは危険だと叱られてしまいました。雨はますます激しくなりましたが、雲がどんどん西の方に流れていき、東の方から少しずつ明るくなってきたので、私たちは、そのまま木の下に立っていました。それから、空が晴れあがって青く澄み始めるまで、三十分はかからなかったように覚えていますが、その後は、以前のむし暑さがもう想像できないようにさわやかになりました。このように、夏は天候の変化が激しいとリヒターさんは話してくれましたが、私は、日本の海を思い出し、一瞬外国にいるような気がしませんでした。

このように、今年の夏は、暑かったですが、とても楽しく過ごせました。


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