Lektion 30, Text 1

第三十課 一 朝寝坊

その朝は何か寝坊したような感じで目がさめました。夜中から降り始めた雨がまだ降り続いていて、もう七時半を過ぎていましたが、辺りが夕方のように暗かったので、いつもの時間に起きられなかったのです。

一か月前から、ある商社に勤めるようになってからも、学生時代の習慣で、私は朝早く隠岐るのがつらく、大抵の日は、母が起こしてくれますが、月曜日は、母が私より早く出勤するので、自分で起きなければなりません。前日の夜も、寝坊しないようにと母が特に注意してはくれましたが、気がついた時には、いつも三十分おそくなってしまいました。こんなに遅れてしまっては、朝ご飯を食べて行く余裕は全然ありませんでした。そんな日に限ってバスもなかなか来ませんでした。きょうは完全に遅刻してしまうようだと自分に腹を立てながら、雨の中を近くの地下鉄駅の方に走って行きました。

ところが、駅の近くまで来た時、前の方から走って来た一台の車が急に目の前で止まり、ドアが開いて、「森さん!乗せていってあげましょう。」と声をかけられました。運転している人は、確かにどこかで見たことがあるような記憶はありますが、その場では、どうしても思い出せなくて一瞬迷いました。けれども、私も急いでいましたし、こんな時は、かえって断るのは失礼だと思い、大急ぎで車に乗せてもらいました。

それから会社まで車で二十分ぐらいかかりました。その間いくら考えても、その人がだれか思い出せなくて私は本当に困ってしまいました。一方、その人は快活な調子で、仕事は楽しいか、朝早い出勤はつらいかなどと、運転しながら、親しく私に話しかけました。

会社の前で降ろしてもらい、入口の方に歩いて行くと、同僚が驚いたような顔で私の方を見ているのが目に入りました。私が事情を話すと、その同僚は、あの人は経済学者で、半年ぐらい前に私たちの就職が決まった時、会社で最近の経済問題について講演した人だと教えてくれました。特に講演の後で、今年新しく会社に入った人たちは、名前と将来の希望を述べるようにと言われ、私も二分ぐらい話しました。その後で、頑張っていい仕事をするようにと励まされたのを、やっと思い出しました。あんな短い時間に、その人が、私たちをよく観察し、名前も正確に覚えていたことを知って、私は本当に感心しました。

その日以来、私はあまり寝坊したり、遅刻したりしないようになりました。